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2013年10月24日木曜日
そこはかとない違和感に再度バチンと目をつぶる話
「ねえねえ」
「やあアンジェリカ」
「ダイゴくんてどっか行ったの?」
「ダイゴくん……?」
「知らない?」
「誰?」
「誰って言われると困るけど……このブログの主だよね」
「それはつまり、ほぼ何者でもないってことだな」
「忘れたの?」
「いや、冗談だよ。知ってる知ってる」
「どっか行ってるの?」
「さあ。居所は知らないな。部屋は?」
「行ってみたけど、いなかった」
「アンジェリカがダイゴくんの部屋に行ったその理由のほうが気になるな」
「借りてた本を返しに行ったの」
「ああ、なるほど」
「前にくまのプーさんを借りたんだけど」
「くまのプーさん?ミルンの?」
「そしたら同じ作者だからってこれを貸してくれたわけ」
「『赤い館の秘密』……」
「これがさあ」
「これホントにプーさんのミルン?」
「同じなの。たしかに同じ人なんだけど!」
「どうしたの」
「本格推理小説なんだよね!」
「くまのプーさんみたいのを期待してたのに?」
「くまのプーさんみたいのを期待してたのに!」
「で、読まなかったと」
「まさか。ちゃんと読んだよ。読み終わってから気づいたの」
「だって創元推理文庫って書いてあるぜ」
「そんなのいちいち気にしないもの」
「おもしろかった?」
「おもしろかった!これたぶん、名作だとおもう」
「じゃあ問題ないじゃない」
「それとこれとは話が別なんです」
「そう?どこが?」
「ピス田さん『アメリ』観た?」
「なんだって?」
「アメリ。観た?」
「観たよ、いちおう」
「好き?」
「何の話をしてるんだ、いったい?」
「まあいいや、じゃあピス田さんはアメリが好きだとする」
「と言われてもね」
「で、こんな映画がもっと観たいとおもったとする」
「べつにいいけども」
「そこであたしが同じ監督の作品を持ってくる」
「ジャンピエールジュネの別の作品てこと?」
「そう。うれしいでしょ?」
「うれしいとおもうよ、たぶん」
「じゃあこれ、ってあたしがDVDを手渡す」
「ふむ」
「それが『エイリアン4』なわけよ」
「ああ…」
「エイリアン4がどうってことじゃないの。それはそれでいいの」
「なるほどね」
「まちがってないけど、でもそうじゃないのよ!わかるでしょ?」
「それで文句を言いに行ったわけだ」
「文句?」
「ちがうの?」
「誰に?」
「ダイゴくんでしょ」
「あ、そうだった。そうそう、そういうこと」
「で、いなかったと」
「あの人なんでいつも部屋にカギかけないの?」
「知らないよ」
「ふつうに開くからいるとおもうじゃない」
「あんまり意味がないとおもってるんじゃないかな」
「なんで?」
「しょっちゅう博士にこわされてるし、それに…」
「それに?」
「博士は合鍵も持ってる」
「なんで?」
「そこが博士の博士たる所以なんだよ」
「まあいいけど。そしたら書き置きがあったの」
「部屋に?」
「部屋に。探さないでくださいって」
「あれ?」
「べつに探すつもりもないけど、ピス田さんなら知ってるかなとおもって」
「その書き置きならわたしたちも見たな」
「わたしたちって、ピス田さんと…」
「博士だよ。そうだそうだ、おもいだした!」
「そのときにもういなかったの?」
「いや、いた。ただ、なんか様子がへんだったんだ」
「へんなのはいつもでしょ」
「それを言っちゃ身もふたもない」
「ちょっと待って、本人がいたのに書き置きを見たの?」
「そう、そこがへんなんだ」
「それホントに本人だった?」
「もちろん」
「梨じゃなかった?」
「梨?」
「メガネかけた梨なら置いてあったけど、まさかそれじゃないよね?」
「いやいや、いたよ、ちゃんと」
「なんか話した?」
「話しかけても無反応だったからなあ」
「それ梨でしょ」
「まてまて。メガネをかけてたって?」
「そう」
「だとするとその梨は頭とおなじくらいの大きさってことになるぜ」
「うん……あれ?」
「デカすぎるよ」
「言われてみれば…」
「いたんだよ、本人が。そこに」
「うそでしょ。どう見ても梨だったけど」
「見間違えたんだよ」
「そしたらあの書き置きは何?」
「メモじゃないの?」
「そんなメモある?」
「メモってそんなもんだよ。たとえばここにも1枚あるけど」
「何?」
「なんて書いてある?」
「『おどりぐい』って書いてあるけど…」
「洗濯したシャツから出てきたんだ」
「これが何なの?」
「さあ。それがさっぱりわからない」
「忘れただけでしょ」
「たぶんね。だからあの書き置きもそうなんだよ、たぶん」
「そうなのかなあ」
「電話してみた?」
「え?」
「電話」
「だれに?」
「ダイゴくんに」
「番号知らないもの」
「登録してあるよ、たぶん」
「してないってば。必要ないし」
「いや、してあるとおもう。確認してごらん」
「してないって……あら?」
「あったでしょ」
「何これ、いつの間に…?きもちわるい!」
「でないと話が進まないからね」
「イヤだなあ、こんなの」
「人生はイヤなことでいっぱいだ」
「あたしの人生にイヤなことなんてひとつもない」
「その例外がダイゴくんてわけだ」
「もう……しかたない、かけてみるか。出るかしら」
ぷるるる
「もしもし」
「わ、出た!」
つづく