ある晩、ひたひたと音もなく忍びよる大晦日を前に珍しくムール貝博士が訪ねてきたのです。
ドカン
「おや、久しぶりに聞くこの呼び鈴的な爆発音は…」
ボゴン
ズガン
パリンパリンパリン
ゴゴゴゴゴ
ドドドドド
バキバキバキ
ガラガラガラ
ヒューン
ドパーン!
「痛たたたた」
「やァ久しぶり」
「いくら何でもやりすぎですよ!」
「ピンピンしてるじゃないか」
「この瓦礫の山が目に入りませんか?」
「スマンスマン。誤爆した」
「どう考えても集中砲火でしょうが!」
「情報がまちがってたんだ」
「正しさなんて歯牙にもかけないくせに」
「世界の誤爆はだいたい大目に見てもらえるもんさ」
「遺憾の意を表明します」
「まァそれくらいしかできることはないだろうな」
「人でなし!」
「誰がヒトデだ」
「年越しの雨露をどうやってしのげばいいんだ…」
「よければいいだろ」
「ふつうの人間は雨をよけられるほど敏捷じゃないんです」
「まァそう言うな。土産を持ってきたんだぞ」
「土産?」
「土産だ」
「博士が?」
「そうとも」
「槍が降る!」
「心外だな、おい」
「だったら爆撃なんてしないで普通に来てくださいよ!」
「しないと誰だかわからないだろう」
「得体の知れない土産より、僕は頑丈な住まいを望みます」
「ひ弱なのを建てるからだ」
「集中砲火を浴びれば大抵の家は崩れ落ちますよ!」
「それはさておき、ちょっと獣を狩ってきたんだよ」
「さておかれても困ります」
「首尾よく仕留めたはいいがデカすぎて食いきれない」
「はァ」
「仕方なくおすそわけという結論に至った」
「いま仕方なくって言いましたね」
「食おうとおもって食える肉じゃないぞ」
「何の肉ですか」
「それを訊くのは野暮ってものだ。ほら」
ドスン
「デカい!」
「これで年を越すといい」
「越す家なくなっちゃいましたけど」
「何しろ売るほどあるから閉口してるんだ」
「あ、値札貼ってある」
「目ざといやつだ」
「ホントは買ってきたんじゃないですか」
「バカ言うな。これから売るんだよ」
「しかも安い!」
「良心的だろう」
「貴重な良心をこんなところで浪費しないでください」
「これを解体するのは骨が折れた」
「肉だけにね」
「…」
「…」
「…」
「ずいぶん半端な額ですね」
「ん?」
「2012円…」
「こまかいやつだな。買うのか買わんのか、どっちだ」
「さっきおすそわけって言ったじゃないですか!」
*
と
いうわけで、例のごとくと言うべきか今年もまたと言うべきか、今年も細々とお付き合いいただきありがとうございましたの気持ちをこめて、ムール貝博士が狩ってきた得体の知れない肉を10名くらいの方に贈ります。気がつくと毎年の恒例行事になっている気がする。
こんなんでもほしいと手を挙げてくれる物好きなかたは、
1. 氏名
2. 住所
3. わりとどうでもいい質問をひとつ
上記の3点をもれなくお書き添えの上、dr.moule*gmail.com(*を@に替えてね)までメールでご応募くださいませ。毎度のことだし、胸をはれるようなことでもないですが、競争率はそんなに高くありません。
締め切りは例によって12月31日の大晦日が目安です。が、枚数に届かない場合も大いにあり得るので、あきらめきれないバレンタインチョコのように、明けて3日くらいまではひっそりとお待ちしています。気軽に応募してみてください。(仮に抽選となった場合でも、いただいたメールには必ず返信しています)
ちなみに今年は「折り紙、新聞、ボールペン、消しゴム」というどの家庭にもあるチープな素材をもとにしているため、手作り感がハンパないことになっています。肉を吊り上げるクレーン部分にいたっては1枚として同じ柄がありません。(慣れない人からするとその手間に驚かれるんだけれど、特装版をひとりで500部用意したことに比べたら圧倒的に余裕というか、こんなのモノの数ではないのです)
応募してもらえるといいなあ…
(毎年毎年、ためらいながらおそるおそる発信しています)
*
思い返せば今年も多くの人にお世話になりました。いまだに路上生活と背中合わせな身の上でありながらどうにかこうにか糊口をしのげているのも、ひとえにみなさまのおかげです。石高は一向に増える気配がないのに、一生かけても返せない恩だけが雪ダルマ式に増えていきます。でもいい年こいて日本海を眺めるためだけに日帰りで鈍行列車に乗る人生も、そんなにわるくないとしみじみおもう。
あれからだいぶ月日がたった今も、次のアルバムはまだですか、とときどきおたよりが届きます。そういえば古川さんにもさりげなくその話を振られました。いつもありがとう!心のどこかで「もう済んだ」というきもちがなくもないので、次の予定は今も全然ありません。でもそもそも名を成したくて始めたわけではないし、何から何までぜんぶ一人でやっていると却って辞める区切りも全然ないので(詩人としての活動がほとんどないのにぽつぽつとつづいているこのブログがその証です)、またみなさまのお世話になることもあるかとおもいますが、ほんのちょっとでもご愛顧くだされば幸甚です。来年もひきつづき、どうぞよろしくおねがいします。
今年は、えーとNEWSの加藤くんにアルバムを紹介してもらったことがいちばん大きなニュースでした。生きているといろんなことがあるものです。
みなさま、良いお年を!